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第21話 デマンド管理による省エネルギー

 電力におけるデマンド管理とは、最大需要電力(最大デマンド値)を一定以下の値に維持することにあります。デマンド管理を行うことによって、負荷率が向上し受配電設備の効率的運用が可能となります。
更に、契約電力の決定し際しては、最大需要電力が大きな要素(実量制の場合には自動的に年間の最大需要電力が契約電力となる)となります。契約電力によって、基本料金が算出されますので、 デマンド管理を適切に行うことにより基本料金が低減(コストダウン)できることとなります。

 これは電力需要家からみた側面ですが、電力供給側からみた場合には、電力需要の平準化を図ることにより発電、配電設備への設備投資の低減につながります。
電力を安価にしかも大量に蓄積することは現在のところ困難ですので電力会社は、需要量に応じて電力を供給する必要があります。つまり、負荷が変動する場合には発電量もそれに応じて変動させる必要があります。
更に、予想される最大需要に応じるだけの発電能力を備えておく必要があります。従いまして、最大需要電力を低減させることができれば、その分発電設備への投資が低減します。
 これらの政策的配慮によって最大需要電力が基本料金へ反映されていると考えて差支えないと思います。

 さて、ここでデマンド値の定義をしておきます。電力会社の取引用計器のデマンド値の計測方法は、 時々刻々変化している瞬時電力を30分間積算して得られた積算電力量(kWh)を30分で割った値をデマンド値(kW)としています。

 デマンド値(kW)=30分間の積算電力量/30(分)
          =30分間の積算電力量(kWh)/0.5(h)

 つまり、需要電力(デマンド値)とは、瞬時電力ではなく30分間の平均電力ということになります。
例えば、1kWの定常負荷があったとしますと瞬時電力計で電力を測定しますと1kWを示します。この時積算電力量計で30分積算すれば0.5kWh、1時間積算すれば1kWhとなります。
この場合には、定常負荷ですから瞬時電力=30分積算電力量(kWh)/0.5(h)=60分積算電力量(kWh)/1.0(h)=1kWとなります。

 一般的に負荷は常時変動していますので、30分間の平均値を以ってデマンド値としております。(何故30分になったのか私は知りません。後学のためご存知の方がいらっしゃいましたらご教授願えませんでしょうか)
瞬時電力ではなく30分の平均電力をデマンド値とすることによって、この値を一定値以下に抑制することが可能になります。
 例えば、20kWの定常負荷を30分間連続使用すればデマンド値=20kWとなりますが、15分間連続使用した後、15分間休止すればデマンド値=10kWとなります。
従いまして、30分間の目標デマンドを定めて、開始時刻から積算電力を計測して、その値を2倍すればその時点でのデマンド現在値となります。 これを元に開始時刻から30分後のデマンド値を予測(予測演算の方法は色々あります)します。このまま使い続ければ予測値>目標値となるような場合には、負荷の使用を制限することによって予測値<目標値とすることを可能とします。
 このようなことを人手で行うこともできますが、このような予測演算や警報出力などの監視機能、負荷制御出力などの自動制御機能を備えたデマンド監視制御装置(デマンドコントローラー、略してデマコン)といったものがあります。
これを用いることによって、比較的簡単にデマンド管理を行うことができます。

 下図は、ある印刷工場の一日のデマンド推移です。



 このグラフから明らかなように昼休み後の一斉稼動によってデマンドのピークが形成されております。
これを防止するだけでも約20%のピークカットが可能です。つまり基本料金が20%安くなるということです。
 この工場の場合、省エネのため昼休みに食堂や休憩室以外のエアコンを停止しておりました。ですから、その間工場内の温度が相当に上昇してしまっております。 昼休みの終了と同時にエアコンが一斉稼動します。これが原因となり第1のピークができていたのです。皮肉なことですが、昼休みのエアコン停止が無ければ、 第2のピーク(2時後半)程度で済んでいたということです。  しかし、省エネの観点(使用電力量の削減)からは昼休みのエアコン停止は推奨されるべきことです。
 人手で管理してこれらを両立させることは相当に困難でしょう。デマコンを導入すれば、青線程度のデマンド目標にデマンド値を抑制しつつ、昼休みのエアコン一斉 停止による省エネも同時に実現できることになります。

 このようにデマンド管理によって負荷の平準化が可能となります。このことによって先述の通り、基本料金の低減といった経済的効果が得られます。
省エネルギー効果としては、使い過ぎの時だけ一時的に負荷使用を制限することによる低減にとどまりますが、電力システム全体としてみた場合には大きな省エネ効果(余分な発電設備や配電設備の削減など)を期待できるものと考えます。  

 また、デマンド管理にとどまらず負荷を適切に管理(冷暖房の効かせ過ぎを抑制するなど)することによって、省エネルギー効果を大きくしたデマンド管理システムなどもあります。 これらを導入することにより、基本料金の低減といった経済効果のみならず、省エネ効果をも実現することができます。 (参考:第30話 温度管理によるエアコンの省エネルギー

 蛇足ですが、私はかつて「デマンドコントローラー」の設計(3機種)に携わったことがあります。また、エアコンをはじめとする各種負荷の自動制御についても数多く導入してきました。 かなり突っ込んだご質問にもお答えできると思っております。
今となっては取り立てて隠すような技術でも何でもありませんので、疑問に思われる点などございましたらメールなどでお問合せください。
 「第3話 省エネルギーと行政書士(3)」でも書きましたように、省エネに何がしかの貢献ができないかと考えておりますので、 遠慮なく質問をぶつけていただいて結構です。

<参 考>
 デマコンでデマンド管理を行うのがベストですが、運用改善である程度の低減を図る例をご紹介します。
 大きな負荷を稼動させる必要がある場合で、この負荷の稼動時間が30分だとします。このようなケースでは稼動開始時刻によって次のような差がでてきます。
簡単にするために次のような例を考えてみましょう。
 ある工場で通常時のデマンド値が500kW(変動は考えないことにします)であったとします。ここで200kWの負荷を30分間稼動させる必要に迫られたとします。
これを2つのケースに分けて考えてみます。

@ 10:00から稼動を開始した場合
 最大デマンド値=500+200=700kW
となります。

A 10:15から稼動を開始した場合
 最大デマンド値=500+100=600kW
となります。

 何故このように最大デマンド値に100kWもの差が出てしまうのでしょうか?
それはデマンド値が30分間の平均電力であることに由来しています。つまり平均するためには期間が必要です。電力会社の計量器では、その30分の開始時刻が毎時00分と30分になってるのです。
@のケースでは、10:00から200kWの負荷を稼動させますので、デマンド計測期間の30分間にまるまる亘ってしまいます。
一方、Aのケースのでは、10:15からとなりますので、200kWの負荷が10:15〜10:30:の15分間と10:30〜10:45の15分間に分割されます。 従って、それぞれのデマンド計測期間について100kWの寄与で済んでしまうことになります。

 このように稼働時間を少しずらすだけで、100KWものデマンド値を低減させることができます。
電気料金に換算すると、基本料金を1,860円/kWとすれば、
 基本料金(月額)=1860×0.85(力率割引)×100=158,100円
もの差額となります。

 上の例は極端な場合を想定しておりますが、身近なものとしてエアコンの一斉稼動(一斉起動)があります。
朝一や昼休み終了時などにエアコンが一斉運転がされることが往々にしてあります。この場合エアコンは最大能力で運転しますので、当然消費電力も最大となります。
しばらくすると室温が設定温度に近づき消費電力も次第に低下し、一定値(外気温度や内部発熱などによって異なりますが・・・)に落着きます。
 これを上の例に当てはめて考えてみてください。毎時00分と30分に一斉稼動するよりも15分と45分に稼動を開始した方がデマンド抑制効果があることがお解かりいただけると思います。 更に、15分と45分の2グループに分けて稼動させれば、より効果的となります。
 このように運用改善で、ある程度の効果を出すことができます。それ以上の効果を得たいときデマンドコントローラーの導入を検討されたら如何でしょうか。

<2011/04/13 追記>
 今回の大震災の影響による計画停電などの対策として、デマンド管理が注目されております。既にデマンドコントローラーを導入されている需要家は政府の削減目標を 確実に守ることができるでしょう。(目標値を守るために必要な遮断できる負荷があるか否かの議論は抜きにして)
 導入されていない需要家及び高圧受電でない需要家の場合には確実な方法はあまり無いと思われます。そこで、計画停電を回避する私なりのアイデアを 「第108話 計画停電解消に向けての提言」に掲載しておりますので、ご参照いただければと存じます。

<2011/10/13 追記>
 電力計測システムの端末として携帯端末(iPhone,iPad)を活用した「見える化ツール」が登場しました。デマンド監視機能も付いております。 もう昔のデマンドコントローラーの概念を見直す時期に来ているような気がします。
 詳細は「第120話 携帯端末を活用した電力計測システム」をご参照ください。


<2013/02/04 追記>
※ご注意
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<2013/04/19 追記>
 コピペに関する私の考えは、「コピペによるブログ記事の作成について皆様はいかがお考えでしょうか?」 やこれからリンクされているブログ記事に書いております。忌憚の無いご意見をお待ちしております。


<2014/08/25 追記>
 電力と電力量を混同しているのをよく見かけます。 「電力と電力量」で説明しておりますので、ご参照ください。

<参 考>
第13話 電球型蛍光灯による省エネルギー
第22話 インバーターによる省エネルギー
第23話 エアコンの省エネルギー
第25話 自動販売機の省エネルギー
第43話 設備改修による省エネルギー
第49話 LED照明による省エネルギー
空調温度管理による省エネルギー(空調温度管理とは?)


2008/06/17新規

2014/09/22更新


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