第23話 エアコンの省エネルギー
「エアコンの究極の省エネルギーは使わないことである。」といったら身も蓋もありませんので、使うことを前提とした話を致します。
一つには使用時間の短縮であろうかと思います。これには使用期間の短縮と一日の内の使用時間の短縮があります。
冷房期間や暖房期間の定めがあるものが前者、エアコンの運転開始・終了時間の定めがあるものが後者に該当します。
これらのことを手動で管理している場合と自動で管理している場合があるでしょう。
このようにエアコンの稼働時間そのものを短くすれば省エネになることは容易にお解かりのことと思います。
今ひとつがエアコンの温度設定です。政府の冷房28℃、暖房20℃といった推奨温度がこれにあたります。
この温度基準が妥当かどうかという議論はさておき、冷房温度を高くしたり暖房温度を低く設定すると何故省エネになるのかを考えてみましょう。
温度の高い物体と温度の低い物体を接触させると温度が高い物体は温度が低くなり、温度が低い物体は温度が高くなり、
しばらくすると両物体の温度が等しくなることは広く知られているところです。このように熱は高いところから低いところに流れるような性質を持っているといえます。
もしエアコンが停止しているとしたとき、外気温度が室温より高ければ室温も徐々に高くなっていき、
室温=外気温(ここでは簡単のために太陽光や部屋の内部発熱による室温への影響は考えないことにします。)となることになります。
さてエアコンは、この自然の流れに逆らって部屋の温度を一定に保つ働きをします。このために冷気を作って部屋に送り込みます。
この冷気を作るためにエネルギーを必要とします。一般的に外気温度と室温の差が大きければ大きいほど多くのエネルギーを要します。
例えば、外気温度が30℃であったとします。設定温度が28℃の場合と25℃の場合を考えてみます。
エアコンが停止しているならば、先と同じ条件であれば、室温は30℃になります。そこでエアコンの運転を開始します。設定温度が28℃の場合には温度差の2℃だけ冷やして
やれば目的の温度に達します。設定温度が25℃の場合には、更に3℃だけ冷やすためのエネルギーが必要です。
そして設定温度に達したならばエアコンは冷気を出さなくなります。すると外気の熱エネルギーが室内に流れますので室温が上昇します。上昇の速さは外気温度との差が大きいほど速くなります。
ですから設定温度が25℃の方が早めに冷気が出始めます。一方、設定温度が28℃の方は、少し遅れて冷気を出し始めます。
これらの動作を繰り返しますので、長時間の累計をすれば冷気を出している時間は冷やす速さは同じだとすると設置温度が28℃の方が25℃の方より短くて済みます。
冷気を作り出す時間当たりのエネルギーが同じだとすると冷気を作っている時間が短い方が省エネルギーになるといえます。
ということで、冷房時の設定温度を高めにすれば省エネになるということになります。暖房の場合には、冷房の逆のことを考えれば良いと思います。
今の話は簡単化して考えたのですが、実際には内部発熱や太陽光入射による温度上昇などの複雑な要素が絡んできます。しかし、温度設定がキーポイントであることに変わりはありません。
今までの説明で、温度設定の重要さをご理解いただけたと思います。
エアコンの冷気・暖気を作る心臓部が圧縮機(コンプレッサ)です。多くのエネルギーがこの圧縮機で使われます。このエネルギーを全て電気で賄っている場合には、
デマンド管理という新たな問題が発生します。
デマンド管理による省エネルギーでも述べましたように、最大デマンドが大きくなると基本料金のアップに繋がります。
オフィスビルなどのエネルギー割合をみるとエアコンの占める割合が大変高くなっております。従いまして、温度設定を適切に行うことによる省エネルギー対策も必要ですが、デマンド対策も重要になってきます。
デマンドは30分毎に計量されておりますので、これを管理(目標値を定めてデマンド値の増大を防止)することは難しいものです。例えば、昼休みに省エネのためにエアコンを停止させたとします。そうしますとその間の室温はかなり上昇します。
昼休み終了と共に一斉にエアコンを運転するとデマンド値が途端に跳ね上がってしまいます。
確かに、全体のエネルギーは昼休みの停止によって減少するかも知れませんが、デマンド値が大きくなるため基本料金が高くなってしまうなどの経済的不利益を被る場合もあります。
エネルギーコストだけの面から言えば、昼休みも点けっ放しの方が良いこともあります。
また、冬場では始業時(あるいは始業前)に一斉にエアコンを運転し始めるとこれもデマンド値の増大の原因となります。
しかしデマンド監視制御装置(デマンドコントローラー)を用いれば、自動的にエアコンの一斉運転(一斉起動)を防止し許されたデマンド値の中で最大限のエアコン稼動ができるようになります。
ここで注意する必要があるのが、デマンドコントローラーを導入してエアコンを制御すると省エネになるかという点です。デマンドオーバーによって一時的に圧縮機を停止させるとエアコンが
冷気を出さなく(送風運転)なります。その結果室温が上昇します。しかし、デマンドオーバーが解消すると元の設定温度まで回復しますので、温度上昇分を取り戻すため長時間圧縮機が運転されます。
従いまして、省エネになる量は長時間室温を平均した値が設定温度より高く(冷房時)なった分だけということになります。
省エネ業者の中にはエアコンの圧縮機の間欠運転を自動的に行うことで、その間欠率の分だけ省エネ効果があるといった計算をしていることがあります。
例えば、10分間の内7分間は圧縮機を運転し、3分間は停止させるので30%の省エネになるといったようなものです。しかも、たった3分の停止だから室温はさほど上昇しませんといったものです。
これは私見ですが、このような省エネ効果は疑わしいと考えます。冷房の場合には、先述の通り室温上昇を伴わない省エネはあり得ないということが理由です。
平均室温の上昇分が省エネになるのであって、間欠運転で圧縮機を停止させても次の運転時間にその分長く運転すれば、省エネ効果がキャンセルされます。
30%もの削減をするためには、30%に見合う分の温度上昇を伴わなければならないはずです。
もっと言えば、間欠運転の制御手法は圧縮機を停止させることによって実現されております。この時に室温を監視しながら制御しているとは思えません。ということは、
間欠運転によって室温が高くなった場合を想定しましょう。この場合には、室温上昇を伴いますからその分省エネになっております。そうすると人はどのような行動をとるでしょうか?
おそらく温度設定を低くして室温を下げるようにすると思います。そうすると圧縮機の平均稼働時間が長くなり、例え30%停止したとしても増エネになってしまうかも知れません。
結局、エアコンの省エネを図るには室温そのものに着目して、設定温度を適切に管理することが最も重要であると考えますが、如何でしょうか。
(参考:温度管理によるエアコンの省エネルギー)
<2011/06/10 追記>
間欠運転の説明が分り難いとのご指摘がありましたので補足説明致します。
先述のエアコンの例で言えば、30%の削減効果が得られるのは圧縮機の稼働率が100%の時だけです。当然それに見合う室温が上昇(冷房時)します。
平均稼働率が70%〜100%の場合には、平均稼働率×30%の削減効果が期待できます。平均稼働率が70%未満の場合には残念ながら削減効果は期待できません。
これは室温がエアコン自身によって温度管理されているからです。リモコンの設定温度により圧縮機の動作が制御されています。室温が設定温度より高ければ、
圧縮機を動作(インバータの場合は能力アップ)させ、室温が設定温度より低ければ圧縮機を停止(インバータの場合は能力ダウン)させるこによって室温を調節しております。
従いまして、圧縮機の平均稼働率(インバータの場合は能力)は変動しており、常に稼働率100%である訳ではありません。むしろ100%で動いている時間はそう長くはありません。
長時間稼働率100%で動作している場合、それは使用環境に対してエアコンの能力不足を意味します。
このように設定温度などにより、制御されている場合には間欠運転したからといって必ずしも削減効果があるとは言えません。このようなものに冷凍庫、冷蔵庫、
ボイラーなどが挙げられます。
逆に、常に100%で動作しているものの例として、照明(調光されていないもの)、ポンプ、ファンなどがあります。これらのものは、30%の間欠運転をすれば、
30%削減することができます。これは直感的に理解することができると思います。照明の場合には、消した時にはエネルギーを使いません。ですから消した時間の
割合だけ削減できます。その代り消した期間は100%その用をなさないことになります。
間欠運転は手軽に実現できますが、ONかOFFの選択となってしまいます。これらはインバータ制御の対象でもあります。対象システムの特性と費用対効果を勘案して
選択することが必要だと考えます。
余計に分かり難くなったかも知れませんが、補足説明とさせていただきます。
<2011/06/20 追記>
案の定、分かり難いとのご指摘をいただきましたので、具体的な例を交えて再補足させていただきます。
消費電力10kWの電気ボイラーを想定しましょう。このボイラーは80℃に温度設定してあるとします。
温度管理はお湯の温度が79℃になった時ヒーターがオンになり、81℃になった時ヒーターがオフになるものとします。
また定常的にお湯が使われ一分間に1℃の割合で水温が下がります。更にヒーターがオンになると一分間に1℃の割合で水温が上がるものとします。
次に、全く同じボイラーを2台考えます。動作環境は二台とも同一であるとします。一台(ボイラー@)は元々の仕様で動作させ、もう一台(ボイラーA)は、
10分間で3分間強制停止させるものとします。間欠運転は完全性を期すためヒーターがオンになる時から3分間引き伸ばすことによって行います。
また連続して7分間オンとなった場合には、その時点から3分間オフとすることにします。つまり30%の間欠運転ということになります。
最初に水から81℃とするまでのエネルギーは考えないものとします。これに要するエネルギーは同じです。違いは沸き上がる時間が間欠運転の方が長くなるだけです。
さて、現在両方のボイラーとも81℃からスタートしましょう。
2分後に両ボイラーとも79℃になります。ボイラー@はこの時点でヒーターがオンになり、2分後にオフになります。以後、4分間隔でこれが繰り返されることになります。
一方、ボイラーAは、3分間ヒーターオンが引き伸ばされますので、この時の水温は76℃になります。この時点からヒーターがオンになり、
5分間オンを継続した後オフになります。以後、10分間隔でこれが繰り返されることになります。
ここで、一時間の消費電力量をそれぞれ計算してみましょう。
ボイラー@
10(kW)×2/60(h)×60/4(回)=5(kWh)
ボイラーA
10(kW)×5/60(h)×60/10(回)=5(kWh)
と全く同じになります。つまり間欠運転による省エネ効果はゼロです。これはボイラーのヒーターがの稼働率が50%であるからです。
間欠率が30%の時には稼働率が70%以下では同様の計算になります。
稼働率が70%以上の時に
削減率=稼働率×間欠率
になります。当然稼働率=100%の場合には
削減率=間欠率
となり、先に述べたポンプ、ファン、照明などの結論と一致します。
今回はボイラーで考えましたが、エアコンでも同様に考えることができます。
水から設定温度、ここでは81℃に沸かします。これは、暖房をするためにエアコンの運転スイッチを入れるのに似ています。
設定温度に達すると送風運転になります。しばらくすると室温が低下してきますので、圧縮機がオンになり室温が上昇します。
設定温度に達するとまた送風運転になるという繰り返しです。
如何でしょうか、全く同じメカニズムであることがお分かりいただけたと思います。
<2012/02/10 追記>
間欠運転と連続運転の消費電力量を比較実験した結果がありました。
「エアコンの間欠運転と連続運転の節電効果比較−(財)電力中央研究所 システム技術研究所」
<参 考>
第13話 電球型蛍光灯による省エネルギー
第22話 インバーターによる省エネルギー
第25話 自動販売機の省エネルギー
第43話 設備改修による省エネルギー
第49話 LED照明による省エネルギー
空調温度管理による省エネルギー(空調温度管理とは?)
2008/06/25新規
2014/09/22更新
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