第20話 節電器について
数ある省エネ製品のなかでも、とかくトラブルが多いのが「節電器」なるものです。
ここでは、「節電器」なるものを純粋に省エネルギーの立場から眺めてみたいと思います。といっても私見であることを予めお断りしておきます。
電気事業法施行規則によりますと、標準電圧100Vの場合にはその供給点において101±6Vに維持することと定められております。つまり95〜107Vの範囲で供給されているということです。
高圧で受電する場合を除き、各需要家へは電柱等に設置された変圧器により低圧(100V、200V)に変換され配電されます。変圧器から需要家までの距離や電力需要はまちまちですので、
供給点での電圧は異なりますし時間的にも変動します。法の趣旨は、その変動範囲を101±6Vの範囲に抑えよといったことになります。
電気製品は当然のこととして、このような電圧変動があっても問題なく機能するよう設計(安全率をみて)されております。
以上の前提で、節電器を考えてみましょう。
節電器とは、電力会社から供給されている電力の電圧を下げて省エネルギーを図るというものです。
節電器の説明にしばしば利用されるのが、電気において基本中の基本法則であるオームの法則です。
電圧をE(V)、電流I(A)、抵抗R(Ω)としたとき、これらの間には、
E=IR
という関係が成立します。(この関係式は本来直流の場合に当てはまるのですが、交流の場合にはRが純粋に抵抗分のみの場合に限り成り立ちますので、
ここでは簡単のためにそのまま使用します。業者の説明も似たり寄ったりですので、深入りすることは避けたいと思います。)
消費電力P(W)は、
P=EI=E×(E/R)=E2/R (オームの法則より、I=E/Rを代入)
となります。
さてここで、仮に標準電圧である100V、上限値である107V、下限値である95Vのそれぞれの電圧について、消費電力を計算してみましょう。
簡単のためにR=100Ωとしましょう。
95Vの場合、P95=95×95/100=90.25W
100Vの場合、P100=100×100/100=100W
107Vの場合、P107=107×107/100=114.49W
となります。
仮に上限値から下限値まで電圧を下げた場合には、
(114.49-90.25)/114.49=21.17%
の消費電力が低減します。
このような理想的な状況は考えられないので、105→97Vに電圧を下げた場合を計算してみると
(110.25-94.09)/110.25=14.66%
となります。これが節電器によってもたらされる効果の最大値ということができようかと考えられます。
抵抗の値を変えた場合でも消費電力の削減率は同じです。
ここまでの記述は、純粋に理論的(ある意味理想化した状況)な結論であります。
しかし、現実問題としては、電圧を落とすために変圧器(多くは単巻変圧器)を使用していますので、変換ロスが発生します。
また、抵抗値が電圧によって不変であることを前提としておりましたが、抵抗は温度上昇に伴って抵抗値が変化しますので、ストレートに先の式によって評価することはできません。
(電球のフィラメントに使用されているタングステンなどの金属は、温度が高くなると抵抗値が大きくなりますので、電圧と電流の関係は非線形的になります。ただ、
数ボルトの電圧変化での抵抗値の変化は小さいものと考えられます。)
更に、消費電力を抵抗を前提として議論してきましたが、各需要家には様々な電気製品があります。例えば、白熱電球、蛍光灯、洗濯機、冷蔵庫、エアコン、テレビ、パソコン、・・・。
当然、抵抗のような性質を持った電気製品もありますが極少数でしょう。最近の省エネタイプの冷蔵庫やエアコンなどは、インバータ制御です。
洗濯機や扇風機などの電動機(モーター)等は、抵抗と異なった振る舞いをします。(一般的には定格電圧この場合で言えば100V近傍で最大効率となる設計となっているものと思われます)
また、蛍光灯(インバータ)やパソコンなどの電子機器は、ほとんどが定電力型(電圧が下がれば電流が増えて電力を一定にする)と考えられます。
その少ない抵抗類似の製品が白熱電球や電気ポットなどでしょう。
「電力と電力量」でも書きましたように、白熱電球の場合には、電圧が下がれば消費電力も少なくなりますが、その結果として暗くなります。
さて電気ポットの場合にはどうでしょうか。電圧を落とせば発熱量が落ちますので、その結果沸き上がりの時間が長くなります。消費電力量(消費電力ではない)は電圧が高かろうが低かろうが同じです。
結局、電気製品のうちで電圧を下げて効果が期待できるものは、極々限られたものになってしまうということになります。
更に、冷蔵庫やエアコンのように温度制御(設定温度によって自動制御)されている場合には、電圧を下げて消費電力が下がると仮定(実際には定電力が多いと思われるが)しても、
消費電力量は下がりません。消費電力量(エネルギー)は設定温度に依存しているからです。
そして家庭においては、他の電気製品と比較するとエアコンと冷蔵庫の消費電力量の占める割合が大きいことが特色として挙げられます。
我が家の場合ですと、エアコンが25〜30%、冷蔵庫が10%程度を占めると推定(冷蔵庫は、ワットチェッカーによる実測データによる)されます。
この二つでだけも全体の消費電力量の35〜40%を占めてしまいます。しかも先述の通り電圧を下げても消費電力量は下がりません。
消費電力量が電圧依存する電気製品を多く見積もって全体の消費電力量の40%あると仮定(実際はズット少ないと思いますが)しても削減できる消費電力量は、
14.66×0.4=5.86% (実際にはこの値から変圧器の変換ロスを引かなければなりません。)
程度です。
先程例に挙げた白熱電球は電球型蛍光灯に取り替えれば、格段に省エネとなります。もしどうしても白熱電球を使用したいならば、
110V用電球にすればこと足ります。
何もわざわざ高価な節電器を導入するまでもないことであると考えられます。
さて節電器本体は先述の通り単巻変圧器ですが、通常は現場の供給電圧によって出力電圧をタップで切替られるようになっております。
切替の方法として、手動のものと自動のものがあります。手動のものは一旦切り替えると供給電圧の変動に伴って出力電圧も共に変動します。
ですから供給電圧が最低の場合であっても95Vを下回らないようにタップを設定しなければなりません。供給電圧が上昇すれば、出力電圧も上昇しますので、
省エネ効果(?)は、供給電圧次第ということになってしまいます。
一方、自動のものは供給電圧を監視して自動的にタップを切替えることで、出力電圧を一定に保つようになっております。
電圧を一定にできるので、その分省エネ効果(?)を確実にできますが、供給電圧によって省エネ効果が変動することに変わりはありません。当然、自動のものが高価な節電器になってしまいます。
以上のことより総合的に考察すると、電圧を下げることによる省エネルギー効果は、メチャクチャ贔屓目に見積もっても6%程度(変圧器の変換ロスにより更に低下)であり、電球型蛍光灯やインバータ照明の採用により、より多くの省エネルギーを実現できる
ことなどから、もはや節電器は今日的意義を失っているものと考えます。
<2011/04/01 追記>
この度の大震災の影響による電力供給不足に対して節電が呼びかけられております。この機に乗じて「節電器」が再び活発化する恐れがあります。
先述のように節電器による省エネ・節電効果は全くといっていいほど認められません。「節電器」に類する省エネ機器についての導入に際して、くれぐれも
ご注意いただけますようお願い申し上げます。
<参 考>
第4話 省エネ提案書の不思議
第5話 コストダウンと省エネルギー
第9話 悪徳省エネ業者
第45話 電子ブレーカーについて
第47話 省エネルギー効果検証について
2008/06/17新規
2013/01/31更新
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