第101話 農業ことはじめ(8)−農薬について
現代農業にとって化学肥料と農薬は切っても切れない関係にあります。先日テレビを見ておりましたら、あるコメンテーターが日本の農産物は安全で高品質だから
少々高くても海外で飛ぶように売れている。だから農家はもっと努力して海外へ売れるような農産物を作れば良いんだみたいなコメントをされておりました。
(参考:第57話 この不景気に思うこと)
久し振りに少々高くてもという言葉を聴きました。いつもなら海外の農産物が圧倒的に安いと言うところでしょうが、今回はテーマが違うらしく少々高くても構わないと
仰っておられます。しかし、本当に高くてもよろしいのでしょうか。今年夏野菜が高騰しました。この時政府はどのようなことを言っていたでしょうか。
本音は高いのは海外の人に買ってもらって、国内では安く買いたい。つまり自分は安くて安全で高品質なものが欲しいと考えていませんか?
発言の是非は置いておき、このコメント中に高品質の農産物という言葉がありました。これは一体何を指しているのでしょうか?
勿論、食べて美味しいことは言うまでもないことでしょう。そして高品質というこの言葉には見た目の綺麗さも含んでいるのではないでしょうか。
下の画像のような虫食いだらけのダイコンなどは、いくらなんでも高品質の範疇には入れてもらえないと思えます。もっとも葉ダイコンの場合には、葉っぱが商品ですから
商品価値は全くありません。
キャベツなどは虫君も大好きですから、瞬く間に穴ぽこだらけにしてくれますし、ナメクジなどは芯の方まで進入していきます。このようなキャベツと綺麗なキャベツが
店頭に並べられたら皆さんどちらのキャベツを買いますか?
さて、安くて安全と一口に言いますが、高品質が綺麗なものを指すとすれば、これは矛盾します。虫食いが無い作物を作るには、虫を取らなければなりません。
まさか手作業で取っているとお考えになられる方はいらっしゃらないと思います。安くするためには人件費などというコストは掛けられません。当然の帰結として
農薬を使用します。農薬を使用すれば、ローコストで見た目も麗しい作物ができます。
一方、有機無農薬栽培や自然農法では、農薬は使用せず、自然の天敵の活動によって虫食いを減らせることはあっても、基本的には自然の掟に従って作物を栽培します。
ですから虫食いは当然というか前提なのです。これもローコストな栽培方法です。ただ、農薬を使用したものと見た目は著しく異なります。
つまり安くて高品質(高品質が何を指すかについては議論のあるところだと思います。)なものにするためには農薬の使用が不可欠なのです。
では農薬を用いた作物の安全性は如何にということが問われることになります。皆さん直感的に農薬は危険なものだとお考えのことと思います。しかし、その危険がどれくらい
のもので許容される範囲内のものなのか、長期間摂取し続けても問題がないのかといったことを知りたいと思っておられると思います。実は私もその一人です。
そのようなことを考えていた時、日本有機農業研究会の会報「土と健康」にネオニコチノイド系農薬の問題が提起されておりました。ネオニコチノイド系農薬は、昆虫に選択的に毒性を
発揮し、人などの哺乳類には比較的毒性が低いとされておりますが、青山美子医師の報告によれば、そうとばかりは言っておられないようです。
詳細はネットで検索していただくとして、私は農薬についての専門知識は持ち合わせておりませんが、少なくとも害虫と益虫(害虫の天敵)を選択的に殺すことは
不可能だということくらいは解ります。そして、農薬が全く無害で安全であるということがあり得ないということも。
更にネオニコチノイド系農薬は水溶性なので、土壌にとって一番大切なミミズなどの土壌生物までも害を及ぼします。当然、植物体内にも吸収されますので、
水洗いしたからといって農薬が洗い流されてしまうというわけではないことも付言しておきます。
話は変わりますが、先日、前原外務大臣が「第一次産業のGDPに占める割合はたったの1.5%です。たった1.5%を守るために98.5%を犠牲にしてもいいんですか?」とのたまわっておられました。
しばらく空いた口が塞がりませんでした。如何にも強者の論理そのままといった印象を受けました。例え、本音ではそのように思っていても「それを言っちゃーおしまいよ!」
少なくとも良識ある政治家が発する言葉ではないと思います。というか表現が悪いのですが下手糞だなと思いました。今から農業関係者に対して協力を求めていかなければ
ならない時に、正面切って喧嘩を売ってどうするのでしょうか。相手の気持を逆撫ですることになってしまいます。それとも賢いお方とのことですから、これも計算済みのことでしょうか?
もちろんこの言葉は「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」参加へ向けてのことです。文字通り農業を生業(なりわい)としておられる方々にとっては死活問題かも知れません。
一方、化学肥料・農薬漬けの大規模集約化農業は、種々の理由から近い将来行き詰まってしまうと危惧されております。そして行き着くところは農業の壊滅的崩壊が待ち受けています。
それにTPPへの参加が拍車をかけることになります。
しかし、農業を生業としない単なる「農」と捉えることもできるのではないかと思います。他の仕事で生業をたて、専ら自給自足的に「農」を楽しむといったことです。
無農薬・無肥料だから安全だが見た目は麗しくなく、生産にいくらコスト(そのほとんどは自分の人件費)が掛かろうがお構いなし。病害虫で全滅すれば仕方ないと諦める。豊作で自家消費ができないものは、
自然に任せて栽培されたものであることを理解していただける方に買ってもらう。このような農業だってあり得るものだと思います。
そうすれば関税が掛かろうが掛かるまいが、補助金があろうがあるまいが関わりのないことになります。このようにすることが耕作農地を守る手段になるのではないかと思います。
もしかしたらこれが唯一の有効な手段なのかも知れません。
下の画像の葉ダイコンは、ほぼ全滅状態ですが、2メートルほど離れたところにラディッシュを栽培しております。こちらの方は、ほとんど被害を受けておりません。
考えるに、葉ダイコンがダミーとなってラディッシュを救ってくれたのでしょう。
<2011/04/20 追記>
後日談になるのですが、この虫食いダイコンは見事に復活しました。しばらくはダイコン葉虫に食い荒らされ、見る影も無いくらいに無残な姿になってしまいました。
しばらくするとダイコン葉虫の習性らしいのですが、土の中に退散してしまいました。そうしたら新葉が力強く出てくるではありませんか。葉ダイコンとしては、
既に商品価値が無くなってしまいましたので、そのまま放っておいたらどうなるかと思い実験してみることにしました。そうすると少々小振りではありますが、普通の大根に
なってくれました。私好みの辛い「ツーンとくる」大根ですから、大根おろしにして毎日食することが出来ました。納豆に絡めると抜群のおかずになります。
そして今、真っ白なダイコンの花を咲かせて楽しませてくれております。
虫食いの葉ダイコンです。
<参 考>
第91話 農業ことはじめ(3)−土壌改良
第95話 農業ことはじめ(5)−有機農業
第99話 農業ことはじめ(7)−自然農法について
2010/11/03新規
2011/04/20更新
「第99話 農業ことはじめ(7)」 「第102話 農業ことはじめ(9)」
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