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第102話 農業ことはじめ(9)−兼業農家について

 農業の近代化にとって兼業農家の存在が諸悪の根源みたいに言われております。外国の農産物に対抗するために大規模集約化が推進されてきました。 そのために巨額の予算を使い大規模な耕地整備や農道建設が行われてきましたが、なかなか政府の思惑通りに大規模経営の専業農家は多くなりませんでした。 その原因として兼業農家が農地を手放さないことが挙げられております。兼業農家は農外収入があることにより、片手間的に農業に従事している故、農地の有効活用が 出来ずに集約化が図れないのだといったことかと推測します。
 ですから兼業農家に対する優遇政策を改めれば、農地の流動化が図れ、集積化が進展するといった議論に繋がっていきます。

 そこで逆に兼業農家が無くなり、政府の思惑通り大規模経営の専業農家ばかりになったとしましょう。そして規制緩和により農地の売買が自由化され、更には 営利企業の農地取得ができるようになったとします。
 そうすると確かに経営規模が拡大し、集積化された広大な農地に作付けがなされ、大型機械が導入されコストが削減され利益が得られるようになるかも知れません。 しかしながらコスト削減のためには単一作物を作付けせざるを得なくなります。更に化学肥料や農薬を多用されることにもなります。 (単一作物を連作すると連作障害が出てきます。これを防止するために土壌消毒を行い微生物を殺してしまいます。このようにすることにより連作障害を防止することができる といわれております。しかし、このような農業を続ければ、いよいよ農業崩壊が促進されるという指摘があります。)
 米、麦、大豆、トウモロコシなどの穀類は、このような大規模経営も成り立つ可能性もあります。しかし、野菜などの園芸作物はなかなか機械化することには困難が 伴うと思われます。即ち人手に頼らざるを得なくなります。ここにコスト削減と規模拡大の限界があります。
 次に大規模経営が進展すれば、地域ごとに生産物が固定化してくることになるでしょう。現在でも地域の特産物ということで、特定の地域で特定の作物が多く生産されております。 そうしますと例えば、トマトはどこどこキャベツはといった地域で多く生産されるようになるでしょう。そうすることで商品のブランド化ができ、高く売れるようになりますし、 生産コストも下がるでしょう。
 そうすると消費地まで長距離輸送する必要が生まれます。輸送コストを負担してもトータルコストが下がることもあるでしょうが、少なくともフードマイレージが増加し、 投入エネルギーが増加してしまいます。

 ここまでは良しとしましょう。このように大規模集約化し生産地域が特化してきますと、生産性がアップしていきます。また収量も増加していきます。 現在、食料自給率が低い穀物(米を除く)は別として、供給過剰が生じて価格が低下していきます。特に米は現在においても供給過剰です。兼業農家が減少しても単に農地の所有者が変わるだけであれば 現状と何ら異なることはありません。少なくとも米以外の作物への転換が必要となります。この場合には想定した利益が得られるか疑問です。

 大規模経営については利益が上がっている限りは持続性がありますが、何せ自然が相手の仕事ですから不作などの影響で収益率が悪化すればたちまち大きな赤字を出すことになってしまうでしょう。 それらについては保険でカバーするといった考えもあるかも知れませんが、何れにしてもコストアップの要因です。

 そうこうするうちに生産者間、地域間の競争が始まり、この競争はますます激化していくことでしょう。そしてこの競争は国内だけに止まることはなく、グローバルな 競争に巻き込まれていくことになります。そしてついには、行き詰まってしまう農家が出てきます。当然の帰結として事業の撤退ということになり、それこそ広大な耕作放棄地と莫大な負債が残されます。 農地として引取り手があればまだしも引取り手のない農地の処分問題が生じます。行き着く果ては、農地を転用して宅地や商業・工業用地として活用しようという議論がなされる でしょう。かくて優良農地は目出度く付加価値の高い不動産として扱われ二度と農地として利用されることは無いことになってしまいます。

 一方で、大規模集約化する際に見向きもされない農地があります。例えば山間部の棚田などは物理的に無理があります。しかしながら棚田などが環境保全に多大な貢献をしている ことは周知の事実だろうと思います。これらの農地の問題は大規模化すことによっては解決しませんので別途対策の必要があります。

 このように見ていくと大規模経営がベストな形態ともいえないように思います。

 そこで兼業農家の役割を考えてみたいと思います。兼業農家といっても色々でしょうが、一般的には農業収入と農外収入の割合で第一種と第二種兼業農家に分類されております。 このような分類が意味があるかどうかは別問題ですが、農業以外の収入がある農家のことを指しています。第一種の場合には、農業収入が主で農外収入が従であるということに なります。例えば農閑期にアルバイトしているとか、家族の誰かがパートなどに出て所得を補完しているといった形態が多いのではないかと想像します。 第二種は逆に農外収入が主で、農業収入が従であることです。いわゆる片手間農業になっているということです。これには親が専業農家をやっていて、子供が別に仕事を していたが、跡継ぎせざるを得なくなったとかの形態も多いのではないかと想像します。

 何れにしても農業だけでは喰っていけないから農業以外で別途収入を得ている農家を指しています。第二種の兼業農家であれば、別に農業収入が無くても構わないケースが 多いと思います。しかし、何故農業を放棄しないかということです。これには様々な要因があると思います。単に補助金がもらえるからといった動機もあるかも知れません。 先祖代々の農地を荒らすにしのびずといったこともあろうかと思います。
 農地の集約が進展しない理由の裏返しとして、兼業農家が農地を守ってきたという側面も見逃せません。特に山間僻地における農地についてはこのことが言えるのではないでしょうか。

 最近当地でも農家の高齢化・兼業化が進んでおります。身の廻りを眺めてみてもおそらく95%以上が兼業農家であろうと思われます。そして多くの農家の子供は農外収入 を得ております。私自身も自分で管理できない農地は、専業農家に貸しております。貸すといっても小作料を貰える訳ではありません。土地の条件によっては逆に管理料を 支払わなければならないこともあります。当然固定資産税は、こちら持ちです。そのようにしてでも農地を荒らすことが恥であるという文化がある間は、農地を維持できるでしょう。 しかし、早晩このような文化は廃れてしまうことでしょう。事実耕作放棄地があちこちに目立ってきております。

 ここで私の考えを申し上げますと、それは純粋に農を楽しむことで農地を維持できるのではないかということです。普段は会社勤めされている方が、休日に家庭菜園で楽しむことや 魚釣りに行くのと同様なことだと思います。損得抜きで純粋にその行為を楽しむということです。農業や漁業というように産業としてあるいは生業として捉えるから、利益 云々が議論されなければなりません。休日に魚釣りに行くのに費用対効果なんて考えていないでしょう。それと同じことが農業にあっても良いと思います。
 このようなことは兼業農家にしか出来ない特権のように思うのですが、如何でしょうか?
兼業農家ができること、それは農地を農地として有効に活用して自家消費分を出来るだけ自給することだと思います。そして、自家消費した余剰分を地域の皆様に供給することです。 そうすればフードマイレージも小さくなります。
自家消費が中心ですから見てくれなどどうでも良いことです。少々の虫食いなんてへっちゃらです。むしろ虫も喰わないような野菜は御免被ります。ですから農薬などは使いません。 そして食べきれないものをお裾分けするなり、直売所に出荷するなりすることにします。お裾分けすれば、自分家にないものを頂いたりします。また直売店で販売するにしても多くを 望みません。次回の種代くらいになればといったことでも良いと思っております。純粋に作る喜びを感じることの方に重きを置きます。
 自分の手に余る農地は、専業の方に貸すなり、区画して家庭菜園として趣味を同じくする方々に貸すなりします。都会から棚田の風景を求めて、稲の栽培に取り組まれて いる方もいらっしゃるようです。そうすれば山間僻地の耕作放棄地を減らすことにも繋がります。

 そしてそのような余剰作物が手に入らない都会在住の方々は、大規模経営で生産された安価なものを手に入れるか、家庭菜園で自分で作るかといったことになろうかと思います。

 このようなことを書くと専業農家の皆様や消費者の皆様からは「こちらはそれこそ命を懸けて一所懸命に農業に取組んでいるのに、何を暢気なことを言っているのか。」とか 「そんな片手間で農業をやられたらたまったもんじゃない。」といったお叱りを受けるかも知れません。
 私も専業農家の生き方として大規模集約化された農業を否定するつもりは毛頭ありません。ただそれ一つが農業のあり方ではないのではないかと申し上げたいのです。 このように色々な農業のあり方があってこそ、そしてそれらがお互いに補完しあってこそ足腰の強い農業になるのではないかと思っております。

 ということで先ずは実践あるのみです。私自身が実践してみて、この考えが間違っているかどうかを検証する必要であると思います。
今年は、米を7アール作りました。自家消費分が180キログラム位でしょうから、少しは余剰がでるでしょう(11/15追記:昨日貰った荷受伝票によれば、543.4sでした ので、自家消費分を除いて収量の半分程度は出荷できるのではないかと思います。)。そして大豆が5アールです。こちらは80%は出荷できる見込みです。
それと庭先野菜です。野菜の方は、ほとんど自給できてます。たまにキャベツやレタスを購入する位です。 (キャベツや白菜などの葉ものは無農薬で作るのが難しいし、そんなに沢山食べるものでもありませんので必要に応じて購入すれば足ります。近所の皆さんも 沢山作っておられますので、頂戴することもありますし・・・。)
とにかく採れた野菜で何とかやり繰りしております。
そして直売用にラディッシュを栽培しております。こちらの方は時期にもよりますが、週に1、2回程度小城市内の直売所にて販売させていただいております。 ラディッシュの他にも葉ダイコン、グリーンピース、ニンジンなども出荷しております。今のところ出荷量は僅少ですが、皆様が買って下さるのが楽しみです。


朝採りして水洗いしたラディッシュです。


<参 考>
植物工場(野菜工場)」 「兼業農家は是か非か?」 「農業用水路はいつまで維持できるか?」 「灌漑施設の管理作業」 「農業用水路の維持」 「TPPについて(3)-経営規模拡大で対抗できるか?」 「TPPについて(8)−農地法」 「減反政策について」 「減反政策について(2)」 「なぜ兼業農家を続けるのか(1)」 「兼業農家のネットワーク」 「今こそ兼業農家を始めよう!」 「農地の集約化と生産性向上の限界」 「農地の集積化・集約化

2010/11/09新規

2017/04/24更新

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