第85話 コスト削減と開発投資削減(事業仕分について思うこと)
民主党新政権の下で、事業仕分が行われております。このこと自体は画期的なことであると評価したいと思いますし、今後の実績を注視したいと思います。
しかしながら、聖域無き見直しについては賛成ですが、戦略無き見直しには賛成しかねます。
何が何でも予算を削ることが最善の選択でしょうか?
勿論、無駄なものを削るのは当然なのですが、その無駄の基準が明確にされておらず、手当たり次第削り易いものから削ろうといった発想が見え隠れしているようにも思います。
成長戦略無きコスト削減では、先細りの作戦そのものです。先が見えてこそ現在の窮乏に耐えうるのです。出口の見えない悲惨な状況に一体何時まで耐えうるのか?
(安易なコスト削減の結果については「第41話 人件費削減の是非」、
コスト削減によって得られた利益の使い道については「第72話 コスト削減による利益の分配について(利益三分の計)」を参照いただければ幸いです。)
成長戦略無きコスト削減を端的に示しているのが以下の発言であろうかと思います。
<以下 読売オンラインより転載>
仙谷行政刷新相は23日、次世代スーパーコンピューター(スパコン)開発予算について、行政刷新会議の事業仕分けで「事実上の凍結」とされた判定の見直しには
慎重に対応する考えを示した。
スパコン予算を巡っては、菅国家戦略相が判定の見直しを表明しているが、刷新相は「科学技術は大事だが、世界一でなくてもいい。
予算を見直す方向で問題提起があったわけだから、専門的に早急に検討しないといけない」と強調した。島根県隠岐の島町で記者団に語った。
(読売新聞) 2009年11月23日(月)19:31
<転載終了>
この発言に対して一言、「開発の目的が世界一でなくてどうすのですか?」
世界一、世界唯一のものであってこそ意義があるのであって、二番・三番ではダメなのです。ただ単にコスト競争の嵐に飲み込まれてしまうだけです。
開発の意味を全く以って理解していない発言がそこにあるのです。このような考えでは、日本に未来はありません。ジリ貧の泥沼に嵌まり込んでしまうだけです。
仮に行政刷新ができたとしても日本は亡国の一途をたどることになってしまいかねません。
開発凍結の理由として、開発の成果が上がっていないと指摘されていたと思います。しかし、そのことは当たり前のことなんです。それは困難な開発なのだから成果が簡単に出ないのは当然のことです。
簡単な開発ならば、何も国からの補助が無くても民間でもっとスマートに開発できますし、現に多くの企業でやっていることです。
乗るかそるかの大博打であるからこそ、国の援助が必要なのです。一企業が負担をするには、あまりにもリスクが大きいからなのです。
成功する可能性は低いが、将来大きな成果が期待できるから開発するのです。失敗する可能性が高いからといって、無駄だと決め付けてしまって良いのでしょうか。
多くの開発は日の目を見ずして終息してしまいます。しかし、開発者は失敗から多くのことを学びます。そして、その学びの中から次なる成功の種を得るのです。
多くの失敗の中の一つの開発が爆発的な成功を収めます。それが世の中の革新的な進歩を与えてくれますし、その他多くの開発失敗の経費を賄っても余りあるようにしてくれます。
近年、コストダウンの名の下に研究開発投資が抑制されております。そして短期間で成果を上げることが求められております。このような状況で革新的な開発は望むべくもありません。
開発担当者もリスクが取れない以上、チャレンジ精神が失われてしまいます。ここにも負のスパイラルがあるのです。
一企業に全ての開発リスクを負わせるのは無理というものです。ここに国家的開発プロジェクトの意義があるのです。
その瞬間瞬間で費え去ってしまうものに対するコスト削減と将来の利益のための投資を峻別していただきたいものです。
これは何も開発のことだけについて言えることではありません。その他の分野についても同様に無駄の削減と将来への投資を区別して考える必要があります。
<追 記-2009/12/07>
蓮舫参院議員が科学技術予算や選手強化費に関する事業仕分に関する意見に反論されている報道がありました。
確かに事業仕分チームは事業を見直すのが仕事であった訳ですから、そういった意味では、その役割を果したといえるでしょう。そして国民の期待以上の成果を挙げ得たと思います。
しかしその一方で、成長戦略が示されない中で、必要とされる分野への切込みがなされてしまったのです。成長戦略を示すのはもとより事業仕分チームが為すべきことではなく、
国家戦略局の役割であったはずです。
この国家戦略局が全く機能していない状況で、事業仕分のみが進行すれば、切られる方は危機感を募らせ過剰な反応を示すのは、火を見るより明らかなことです。
そして「世界一を目指す理由は何か?2位では駄目か?」といった発言が更に油を注いだのです。短時間で事業仕分を行うため、少々荒っぽくなってしまうのは、致し方ないのかも
しれません。しかし、開発当事者は心血を注いできているのです。感情的になるのも当然でしょう。
そして、仙谷大臣の発言とを重ね合わせれば、事業が見直しとされたのではなく廃止されると受止めるのが自然であると思います。
成長戦略が示される中で事業仕分が行われることが必要なのであって、事業仕分のみが先行したことが、このような事態を招いたのです。
そして、このように一輪走行で不安定であることを認識しているならば、過激な発言を極力抑えて過剰な反応を起こさない配慮をすべきであったといえるのではないでしょうか。
2009/11/24新規
2009/12/07更新
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