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第41話 人件費削減の是非

 言うまでも無く人件費は、コストの中でも大きい部分を占めております。ですから人件費に手をつけようとする魅力にかられます。
例えば給与の一律カットや従業員の削減などです。これらのことは、安易に実行できると思われ、且つ実効性のあるものに思われます。
ですから大企業は、こぞってこの手法により見事に経営を立て直し、過去最大の利益を得ることとなったのです。
 しかし人件費抑制によって、企業の活力は高まったのでしょうか?
過去最大の利益を上げたわけですから、さぞや活況を呈していたことでしょう。
確かに一部の企業では、高収入を得る社員が存在したことは事実です。しかし、その一方で長時間労働やサービス残業が横行し、果ては過労死が急増したことも記憶に新しいところです。

 ことはもっと複雑ですが、単純化して人件費削減に関して考察してみたいと思います。
ここで例えば人件費を1割カットする必要に迫られたとしましょう。
方法は、
@ 人員を1割減らす。
A 給・賞与を1割カットし人員はそのままとする。
B @、Aを併用する。(人員は給・賞与カットに見合う分を削減)
といったことが挙げられるでしょう。

@の場合には、従来の業務量をこなすためには、残された人員で1.11倍の業務を分担しなければならなくなります。つまり、単位時間当たりの労働強度が強くなるか、 労働時間が長くなります。人件費を抑制したいわけですから、残業代をまともに出していたら元の木阿弥です。ということでサービス残業となってしまいます。

Aの場合には、単位時間当たりの賃金が低下します。そして賃金の低下は労働意欲の低下を引き起こします。恐らく賃金が1割低下すると労働生産性がそれ以上に低下するものと考えられます。

Bの場合には、両者が複合したものとなるでしょう。

 何れの場合でも短期的には所期の目的を達したようにみえますが、ボディーブローが効いてくるように次第に企業の活力が失われていきます。
一時的には頑張りも効き、従来の企業活動を維持できるかのようにみえるでしょう。しかしながらこのような状況が長期間続くと人間の本性として、モチベーションの維持が困難となります。
そうなると次第に労働生産性が低下していきます。特にこのようなモチベーションの低下が顕著に生産性の低下に繋がるのが研究・開発等の分野でしょう。 極端に言えば仕事をしていなくても、仕事をしているようにみせかけることすらできます。このような職種では、如何にモチベーションの維持が重要であるかを端的に示しております。

 能力給制度を取り入れて総人件費の抑制を図ろうとする考えもあります。 能力に応じて給与が決まると言えば聞こえが良いのですが、種々の問題点を内包しています。決定的なものが総体としてのモチベーションが低下することでしょう。 寡聞にして成功した事例を多くは知りません。

 従来の年功序列型も多くの問題を抱えていることも事実です。ですから種々の検討を加えて、企業にフィットする制度を創っていくことは重要なことです。
 ここで問題にしているのは、コストダウンの旗の下、安易な人件費削減が行われてしまっているのではないかということです。

 私は、この分野の専門家ではありませんので、軽々にもの申せませんが、人件費に手を付けるのはよくよく慎重に行う必要があると考えます。

<2009/02/15 追 記>

 どうしても人件費に手をつけなければならないような場合に@とAのどちらにすべきかといった意味のご質問がありました。

 万策尽きてどうしようもないような状況の時には、緊急避難的にAにすべきと考えます。 そして、業績回復後には速やかに元の給与に戻し、カット分は状況をみながら臨時給与や賞与の増額などで補填するようにすれば賛同を得られるものと考えます。
 その理由は次の通りです。
・解雇してしまった場合には後戻りが効かないし、愛社精神など他の従業員に与える心理的影響が大きい。
・職種によっては、技術・ノウハウなどが流出することがある。最悪の場合には同業他社に漏れてしまう結果にもなりかねない。
・企業のマイナスイメージが定着する。業績回復後にもそのイメージが残ってしまう。
・期間を定めた給・賞与のカットであれば、長期に及ばない限りモチベーションの維持が可能である。
 また、会社の危機的状況を共有することにより、状況を克服するといった共通意識を涵養することができる。 そのためにも経営情報の開示と経営者と従業員の話し合いが重要である。

<参 考>
第57話 この不景気に思うこと
第72話 コスト削減による利益の分配について(利益三分の計)

2008/12/03新規

2009/02/15更新


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