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第38話 株価予測システム

 私が学生の頃には、理系といえば基礎科学や工業技術を学び、もの造りのような生産的なことに取組むといったことしか考えていなかったように思います。
近年では「金融工学」なるものが流行しているそうでありまして、理系の優秀な人材が金融関連の企業へ流出しているとのことであります。

 金融工学理論を活用した株価予測システムなるものもあるようで、金融工学花盛りの感があります。
株価予測に関する理論は金融工学の一分野に過ぎないと思いますが、最も身近に感じることなので試しに「株価予測システム」をネット検索してみますと、 Googleで約355,000件、YAHOO JAPANで約3,270,000件がヒットしました。

 本論に入る前に少々寄り道を致します。 毎年、年末恒例の来年の株価予測などといったものがマスコミで話題になります。錚々たるエコノミストの方々がさも自信ありげに株価予測をされております。 私の記憶によると大体において株価がアップすると仰せになっていたかと思います。ところが、日経平均は新年早々13,000円割れ、3月には12,000円割れとなってしまいました。 それこそ舌の根も乾かないうちにと言われても致し方ないような状況でありました。しばらくは持ち直したものの今般のような状況に陥ってしまっております。
予想が外れても、「想定外の事態が発生した」とか「織り込み済み」だとか便利な言葉で色々な言い訳がなされて、大筋では正しかったということに落着きます。 そして誰もが責任を問われません。それこそ信用したものが馬鹿をみるだけなのです。
専門家といってもこと経済に関しては、この程度のものなのです。それとも何か他の理由があって、そのように言わざるを得ないのか・・・。

<2009.6.28追記>
 ※ご参考までに、文藝春秋(2009年7月号)に「エコノミストは役に立つのか−金融危機を予測したのは数人だけ。恐慌でわかった本当の実力」といった記事が掲載されております。 エコノミスト25人の格付け(ムーディーズ型)などされております。是非ご一読いただければと思います。
<以 上> 

 さて、そろそろ本論に戻ります。果たして「株価予測システム」で株価の予測ができるのでありましょうか?
私は金融工学の知識は自慢ではありませんが全くといって良いほど持ち合わせておりません。しかしながら完全無欠なシステムが存在しないということは容易に予想できます。 (参考:「第79話 金融工学って何?」)
もし完全無欠なシステムが存在するならば日ならずして巨万の富を得ることができるからです。というのはここに100万円の元手があるとします。完全無欠なシステムがある期間で2倍になる株を探してきます。 その株に投資すれば、一定期間後には200万円となります。このようなことをたった8回繰り返せば何と25,600万円になってしまいます。更に8回繰り返せば6,553,600万円になります。
100%確実に儲かるわけですから何の苦労も必要ありません。ただ黙って投資して寝て待てば良いのです。
 明らかにこんなに美味い話が無いことがご理解いただけると思います。

 このような反論が聞こえてきそうです。100%確実な方法は無いが確率が高いシステムならば存在すると・・・。うちのシステムは優秀なので80%の確率で当りますと。
しかし残念ながらこのようなシステムも存在しそうにありません。何故ならば50%より僅かでも確率が高いシステムが存在すれば、数多くの取引を行うことにより取引回数は 多くなりはしますが必ず儲かるシステムとなり、これまた巨万の富を手に入れることができるでしょう。ということはこのようなシステムも存在しないということになります。
 確率が50%のシステムでは手数料の支払分だけ損失がかさんできますので儲けることはできません。確率50%未満のシステムは論外です。

 それでも存在すると主張される方や信じていらっしゃる方がおいでになるやも知れませんので、ついでにもう一言。
金融工学を駆使しておられる機関投資家や投資ファンドの皆様の運用成績がそのうちに明らかになると思います。恐らくは巨額の損失が発生していることと思われます。

 あるいは金融工学は発展途上であって、「研究が進めば完全無欠のシステムができるはずだ」といった主張がなされるかも知れません。
確かに一概に否定できない側面があります。しかし金融工学はあくまでも対象が社会現象であって自然現象ではありません。自然現象ならば現在は未知であるが、 何れその法則を見出すこともできるでしょう。しかしながら社会現象にそもそも法則性など存在しうるのかといった疑問を呈することもできるかも知れません。
仮に法則性があるとしても、そこには人間の意志や感情といった種々雑多なものが入り込む余地があります。このようなものを対象として決定論的な結果予測が果たして 可能かといった議論もあるでしょう。

 これでもまだ「株価予測システム」を信じますか?
そうまでして楽して儲けたいのですか?
投資信託などを信用して退職金などの大切な老後のための資産運用を任せている方々を泣かせるようなことがあって良いものでしょうか?

 このようなことに憂き身を費やすより、優秀な理系の皆さん実業に戻って日本の未来のために頑張りませんか!

<参 考>
 テーマとも若干関連するのですが、最近読んだ書籍で面白かったものをご紹介致します。

金子勝・児玉龍彦著「逆システム学−市場と生命のしくみを解き明かす」(岩波新書)

2008/11/17新規

2009/12/31更新

第80話 株価予測システム−その2


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