第18話 牛のゲップで地球温暖化?(+野焼きについて)
先日、新聞報道で知ったのですが、牛のゲップによって発生するメタンガスによって地球温暖化するらしく、
これを防止する研究がニュージーランドで進められているということでした。
うろ憶えですが、牛の飼料に何か添加するとメタンガスの発生が抑制されるだとかいうことだったと思います。
わが国もこれらの研究の支援(金を出す?)をするといったものだったと思います。
その時には、何となくユーモラスな話題だなくらいにしか考えておりませんでした。
ところが、昨日ジョギングをしている最中に突然そのことを思い出し、走りながらツラツラと考え始めました。
ジョギングすることは、安静時に比べるとエネルギーを多く消費することになる。従って二酸化炭素をその分多く排出することになる。
いや待てよ。ということは私自身の存在自体が地球温暖化の原因になっていることになる。
人口の爆発的増加も地球温暖化の原因ということか?
では人口抑制政策がとられることもあり得るということか?
それはあんまりだから人口ならぬ牛口を減らすか?
いや牛を減らせば食べるものが無くなる。ビーフステーキは何物にも替え難い。だからそれは絶対に嫌だ。
「それなら牛のゲップを減らせ!」おまけに「人間のオナラも禁止だ!」
少しSFチックになってしまいました。このような極端な議論に発展することは無いと思いたいのですが、何十年か前にある特定の人種を抹殺しようとした歴史を持つ人間のことですから、
このことを考えると何となく薄ら寒いものを感じてしまいました。
牛が飼料を食べて、反芻している内に醗酵してメタンガスができる。これを口から出せばゲップとなります。これを抑制すれば、確かにその時のメタンガスは空気中に放出されません。
しかし、その時排出されなくても牛の腸で消化された後に最終的には糞尿として排出されます。そして、自然に分解される過程の中でメタンガスや二酸化炭素になって空気中に放出されることになってしまいます。
単なる時間の問題としか言いようが無いのではないかと思い至ったのです。
更に言えば、牛は自分が成長するために餌を食べているのです。つまりが肉や脂肪の形で炭素(空気中の二酸化炭素を植物が吸収してつくったもの)を蓄えていることになります。
しかし、牛も死に(正確には殺され)、人間が食しますので、最終的には二酸化炭素などに分解されることになります。この時排出される二酸化炭素は、かつて餌として食べた植物が吸収したものに他なりません。
メタンガスと二酸化炭素では、温暖化係数が異なるので、メタンガスの方を抑制しなければならないといった議論もあるとは思いますが・・・。
結局、牛が体内に取り入れたもの以上の炭素によるメタンや二酸化炭素は放出されないわけですし、元々牛が食べた飼料は、空気中の二酸化炭素を吸収したものな訳です。
従って、差し引きゼロなのではないでしょうか。結局は食物連鎖のなかのごく一部をクローズアップして、大騒ぎしているようにも見えてしまいます。
それなのに何でそんなに問題視されるのか、私には理解できません。
それよりも過去数億年(正確な数字は知りませんので悪しからず)かかって蓄積してきた化石燃料を産業革命以降バースト的に消費している現代社会の構造そのものに問題があるのではないでしょうか?
だからといって二酸化炭素の抑制が無味だと主張しているのではありません。化石燃料の大量消費は二酸化炭素濃度を一時的に高くすることは疑いようがありません。
そして資源枯渇の問題は目の前に立ちふさがっています。この点からいっても省エネルギーの重要性は明らかなことであると確信しております。
誤解を招かないよう、このことを念のために付言しておきます。
この見解(牛のゲップに関する)は、理解不足で私が勝手に思っているだけなのかも知れません。世界で一流の研究者の方々が懸命に努力されていることですから、きっと私の知らない真の理由があるからに違いない。
私は、無条件に「牛のゲップ=地球温暖化」という図式を受け入れるのではなく、科学的真理を理解したうえで物事を考えて行きたいと思っております。
ですから、どなたか私にも解るように教えてください。
話はガラリと変わりますが、佐賀の風物詩(といったら怒られるかもしれませんが)に「野焼き」があります。麦や米の収穫の後に藁を燃すのです。野焼きをすることについて、最近うるさくなってきているようです。
ここのところ市の農林水産課が毎日拡声器(防災無線)で、生産農家に野焼きをしないように注意する放送を行っております。
私の推測ですので誤りかも知れませんが、そもそも野焼きを行う理由は、
・藁や表土に生息する病害虫を駆除する
・藁灰による土壌消毒を行う
・収穫後に他の作物を作るため藁のまま鋤き込むと土中で醗酵し作物に悪影響を与える(私の故郷である筑後平野では、藁を一旦集めて糞尿などをふりかけ
熟成させて堆肥にした後、肥料として鋤き込んでいたような記憶があります。堆肥を掘り返すと甘い香がそこはかとなく漂いミミズがうようよいました。そのミミズを魚釣りの
餌にしたものです。)
<2010/05/20 追記>
武田 健 著「新しい土壌診断と施肥設計」-農文協
によりますと「イナワラやモミガラは炭素が多く窒素が少ないためC/N比が高い。家畜糞は、牛糞・豚糞・鶏糞となるにつれて窒素含有量が多くなりC/N比は低くなる。
〜(途中省略)〜C/N比の高いワラやオガクズをそのまま入れると、土壌微生物はその有機物をエサにして増殖するさいに、有機物では足りない窒素を土壌中から取って使うから、
作物にとっては窒素飢饉が起こる。逆に家畜糞とくに鶏糞のようなC/N比の低いものを施すと炭素不足・窒素過剰となって、根が焼けて腐り、また特定の病原微生物が
増殖する。昔は炭素が多くて窒素の少ないイナワラなどには尿や石灰窒素を混ぜて積むことで窒素を補給した。」という記述があります。
この記述によると上述のように藁を堆肥化して使用することが合理的であるように考えられます。しかし、次の作付けを急ぐような場合には、次善の策として、鋤き込むことによる
悪影響(窒素不足を補うために化学肥料等が必要になってしまう)を取り除くために藁を燃してしまうことが理解できます。
ここで、C/N比とは炭素/窒素比を表しております。
<以上>
などが挙げられると思います。
ここに農薬や化学肥料を減らす効果と環境に与える影響との比較考量の問題があります。
環境に与える影響として、煙の発生とダイオキシンの発生が挙げられると思います。二酸化炭素に関しては、先にも述べたように空気中の二酸化炭素を吸収したものを
元に戻しただけですから考えないことにします。更に堆肥にしたり土中に鋤込んでも最終的に分解されて、二酸化炭素などを発生させることは言うまでも無いことでしょう。
確かに煙の問題は大きいと思います。喉がいがらっぽくなるし、洗濯物に臭いがうつります。しかし、野焼きは年に2回集中して行われるので、非難の対象になって
しまっている側面も見逃せません。これに比べれば自動車の排ガス、ゴミ焼却場などの影響の方が圧倒的に大きいと思います。日常的に発生している必要悪であるから誰も問題にしない。
少数の農家が槍玉に上げられているような構図にみえてしまいます。
次にダイオキシンの問題です。これも色々議論があるようです。良く引き合いに出される例ですが、「焼き鳥はダイオキシン発生の要件を完全に備えているが、焼き鳥を焼いている人が
ダイオキシンの影響を受けて病気になったということを聞いたことが無い。」というものです。
一時期、「ダイオキシン=猛毒」といった図式の報道により風評被害が発生したことがありました。本当に毒性があって環境に放出することが危険であるならば法規制を強化すべきです。
大いなる科学的議論をお願いしたいところです。
野焼きする方も雨が降る前に燃してしまいたい気持ちは解りますが、雲が垂れ込めているようなときを避けるなど近隣住民のことも念頭においていただければと思う次第です。
このようなことを考えたのも、野焼きの煙が漂う中、市の拡声器による放送を聞きながらジョギングしていたからなのかも知れません。
ところで、防災無線でこのような呼びかけを行うことは如何なものでしょうか。私には無用に農家と非農家(近隣住民)の感情的対立を煽ってしまっているだけではないかと思われてしまいます。
市当局が本当に野焼きを止めさせたいならば、農協や生産組合などを通して、科学的な根拠を示して直接農家に訴えかけた方が効果的だと思いますが・・・。
<2010/06/17 追記>
生産組合を通じて「麦わらすき込み実践マニュアル」なるものが配布されました。発行元は「佐賀県稲わら麦わら適正処理対策会議(佐賀県・JA佐賀中央会・
JAさが・佐賀県生産組合連合協議会)」となっております。このパンフレットの記述にも麦わら分解促進のため窒素を添加(2.5kg/10a)することとあります。
これは硫安に換算すると12kg相当とのことです。これを3年間継続(3年間であることの理由は不明)する必要があるとのことです。
また、ガス(ガスの種類は不明)の発生が4週間でピークを迎えるので、15日後、25日後に水の入れかえ(強制落水)を行う必要があるとのことです。
結構面倒ですね。おまけに3年間は化学肥料の使用が必要となれば、本末転倒の気がしないでもありません。
私のところでは、カッターで切った麦わらを回収し、麦わらと牛糞完熟堆肥(畜産農家から購入したもの)とをサンドイッチ状に交互に重ねて堆肥を作っております。
こちらの方がもっと面倒ですが、出来るだけ化学肥料に頼らない農業にするためには必要なことだと考えております。
<2010/12/28 追記>
先に麦わらをすき込む際に窒素の添加を3年間継続することの理由が不明と書いておりましたが、その理由が判明しましたので追記いたします。
麦わらや稲わらを微生物が分解する際に窒素を必要とすることは先に述べた通りです。分解が進行すると微生物が窒素分を解放します。わらなどの有機物は数年間の長期間に
渡って分解が進行しますので、一年間で解放される窒素の量が限られてきます。稲わらの例では、一年目に13.2%、二年目に7.6%、三年目に5.9%と低減しながら窒素を解放していきます。
ということで、二年目以降は前年度分と当年度分の窒素が加わりますので、すき込んだわらの20.8%の窒素解放が期待できます。このように毎年すき込みを繰り返すことにより、
過年度分のわらからの窒素解放が累積するので、何時の日か窒素の添加が不要となるといったメカニズムです。
この例においても三年間というのは短過ぎるような気がしますが、そこは自然相手のことですから、未解明のメカニズムが働いている可能性もありますので、一応実証試験で
確かめられた期間であると考えても差し支えないのではないかと思います。
<以上>
<2013/06/14 追記>
ここ数年は、米麦は慣行農法で、それ以外は自然農法(参考:「第99話 農業ことはじめ(7)−自然農法について」)にしております。
以前は、鶏糞などで堆肥を作っておりましたが、基本無肥料に移行しようということで、麦藁や稲藁を集めてマルチ代りにそのまま畑に投入しております。
また、一部を保存しておき家庭から出る生ゴミと混ぜてをコンポスト化しております。
これは生ゴミは水分や窒素分が多すぎるので、藁を混ぜることにより適正な水分量やC/N比になるようにするためです。コンポストは、特に肥料を多く必要とする作物に施用しております。
ということで、我が家では藁を燃すことは以前よりしておりません。また、近在の農家でも農協等の指導が行き渡ったようで、今年はほとんど煙が立っていないようです。
ただ、あいも変らず市の拡声器による放送は虚しく繰り返されております。
<以上>
<参 考>
第91話 農業ことはじめ(3)−土壌改良
2008/06/04新規
2013/06/14更新
|