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第48話 操縦訓練記(9)−学んだことと今後の課題

 現在、タッチ・アンド・ゴー訓練の真っ最中で、当分次のステップへ進めそうもありません。そこで、今までの訓練を振り返ってみて、今後のために反省点などをまとめておくのも 有意義なことかと思ってこのテーマにしました。

 小学生の頃、プラモデルや模型飛行機(ゴム動力で飛ばせる)で遊んだり、ラジコンの雑誌を読み漁って、飛行機の各部の名称や役割を憶えたものでした。

 御多分に漏れず、上昇/降下は昇降舵(エレベーター)で、旋回は方向舵(ラダー)で、速さはスロットルで操作するものだと思っておりました。 補助翼(エルロン)にいたっては、飛行機を傾けるために使用することは理解出来ますが、一体全体何時何のために使うのかわかりません。

 自動車運転のアナロジーからすれば、当然の帰結だと思います。

 しかしながら漠然とした違和感も持っておりました。それは映画やテレビなどで出てくる飛行機の映像では、旋回するとき旋回する方に傾いているようでした。 同様に自転車やバイクも曲がるときに車体を傾けているのは何故かといった疑問がありました。
父親に質問すると、「それは曲がるときに発生する遠心力に対抗するためだ。」といった答えが返ってきました。試しに真直ぐにしたまま自転車のハンドルを切ると確かに 外側に倒れそうになります。「なるほど」と一旦は納得しましたが、曲がる方に倒せば何故遠心力に対抗できるのかは謎のままでした。更に、手放し運転の時には、自転車を先に傾けると その方向に勝手にハンドルが切れて曲がることができます。遠心力なんて関係ないんじゃないかと疑問は深まるばかりです。
 そのことを飛行機に当てはめて空想の世界へ入っていきました。左へ旋回するとき、機体も左へ傾く。例えば45°傾いたとき、ラダーを左にとれば、機首は左下の方を向きはしないか。 また、操縦桿を引けば機首が上がるから、45°傾いているから左上の方向へ向くのではないか。そのようなイメージを描いていました。
 もっと傾きが大きくなって、90°になったら、ここでラダーを左にとれば、真下に向いてしまうし、操縦桿を引けば左に機首が向くと想像しました。
 これは小学生の子供が独自に思いついたのではなく、ゼロ戦が登場する映画で、眼下に敵機を発見して左にロールして急降下するシーンを観たことがあったからです。
また、ジェット戦闘機などもほぼ90°に傾けて旋回しているシーンがよくでてきます。これだったら旋回にラダーは不要ではないかと疑問に感じました。
 この疑問が晴れたのは、つい6,7年前のことです。何度も紹介しますが「スティックアンドラダー」を読んで、初めて納得のいく答えが得られました。 ただ、この段階では小学生の時と同様にイメージの世界の中での出来事に過ぎませんでした。

 高校や大学で物理学を学びベクトルで力の分解を理解し、揚力、抗力、慣性モーメントなど飛行に関する基礎的な知識は持ち合わせていても、 そこから飛行に役立つ知識や理解を簡単に導き出せるものではありません。
 エレベータの操作で上昇や降下を行い、ラダーで旋回し、スロットルでスピード調節するといった既成概念を取り払わない限り、いくら物理学の示すところに従っても正しい結論には 到達できなかったと思われます。むしろ物理学の適用方法を間違えていると私に囁きかけてくるのです。そして、物理の限界を感じて「飛行とはそういうものだ。」と勝手に思い込んで しまっていたことでしょう。

 先に記述した操縦方法を次のように読み替えないと正しい理解ができません。(完全に読み替えることはできないと思いますが、かなりの部分で正しいと思います。)
 ・高度(上昇/降下)はスロットルで調節する。(エレベーター操作ではない)
 ・スピードはエレベータで調節する。(スロットル操作ではない)
 ・旋回は機体をバンクさせて行う。(ラダー操作ではない)

@ 高度の変更
 つまりは上昇や降下の方法と上昇や降下から水平飛行への移行(レベルオフ)方法について述べます。
今、スロットル2,200rpm、95ktで水平飛行しているものとし、これから上昇したいとします。
 最初にやることは先ずスピードを落とすことです。即ち操縦輪を引いて機首上げして上昇姿勢にします。そうするとスピードが徐々に落ちてきますので、 75ktになる少し前にスロットルを2,400rpmにパワーを上げます。そして75ktの上昇姿勢を維持するように操縦輪を調節(引けばスピードダウンし、戻せばスピードアップします。 長時間操縦輪を引き続けなくてはならないので、上昇姿勢が決まった段階でトリムを取って舵圧を抜いてやります。
エアスピードを75ktにするのは、セスナ172Pがこのスピードで最良上昇率(単位時間当たりの上昇高度)となるからです。
 目標高度の30フィートほど手前で機首を水平になるように下げます。そうするとエアスピードが上がってきます。90ktになったらスロットルを絞り、2,200rpmにします。
エアスピードを操縦輪で95ktとなるように調整して、トリムを取り舵圧を抜きます。このようにして水平飛行とします。

 次に降下です。同様にスロットル2,200rpm、95ktで水平飛行しているものとします。
先ず、スロットルを絞り1,800rpmにします。操縦輪を少し引き気味にして85kt少し手前までエアスピードを落とします。操縦輪を戻し、85ktを維持するような降下姿勢にします。 下降姿勢が確立したら、トリムを取ります。
 目標高度の50フィート手前で、スロットルを2,200rpmにアップします。操縦輪を引き機首が水平となるような姿勢にします。エアスピードを操縦輪で95ktとなるように調整して、 トリムを取り舵圧を抜きます。このようにして水平飛行とします。

 ここまでの説明で、エレベータ(操縦輪の前後の動き)をスピードの調整に使用していて、上昇や降下のために使用していないことをお分かりいただけましたでしょうか?

 なかなか判らないと思います。私もそうでした。操縦輪を引けば上昇すると思い込んでいたからです。事実、離陸の際には操縦輪を引きます。だから上昇する?
そして、巡航飛行している時には、数10フィートの上昇や降下をエレベータで操作するではないか?
それは一面の真理を含んでいるからです。
充分にエアスピードがついていれば確かに上昇します。しかし、エアスピードが充分でなければ上昇どころか失速してしまいます。

 それはエレベーターが何なのかということに遡らなければ理解出来ないと思います。エレベーターは迎え角(Angle of Attack)の調整装置に過ぎないということを理解する必要があります。
飛行機を重力に逆らって空中に浮かせるには揚力が必要です。その揚力は、主翼の迎え角とエアスピードによって決まります。迎え角が大きい(失速しない範囲で)ほど、 そしてエアスピードが速いほど、その揚力は大きくなります。
 操縦輪を引けば、迎え角は大きくなりますから揚力も大きくなります。だから上昇するのです。しかし同時に迎え角が大きくなれば抗力も大きくなりますので、エアスピードが落ちます。
ですからあるところまで上昇するとエアスピードが落ちて、釣り合いが取れて上昇しなくなり、エアスピードの低下も止まります。
 即ち、操縦輪を引き続けることでは持続的上昇はできないのです。

 同様に降下のために操縦輪を前に押したとします。迎え角が減少しますから揚力が小さくなりますので降下します。同時に迎え角が小さくなれば抗力も小さくなります。 従って、エアスピードも上昇し、揚力も大きくなります。この場合にも釣り合いが取れて、降下しなくなりエアスピードの上昇も止まります。
 即ち、操縦輪を押し続けることでは持続的降下はできません。

 これらのことより、エレベーターではエアスピードを調整するものだということができます。
そして持続的な上昇や降下はスロットルで操作するとういうことになります。

A 旋回と方向舵(ラダー)
 ラダーだけで旋回したらどのようになるのでしょうか?
左旋回のために左ラダーを踏み込みます。そうすると機首が左に向きますが、進行方向は前のままです。即ち、右前方へ進むことになります。いわゆる外すべり(skid)を起こします。
そうすると、主翼の上反角のために右翼の迎え角が大きくなりますから揚力が大きくなります。逆に、左翼の迎え角が小さくなり揚力が小さくなります。 このため左にバンクし始めます。バンクするとやっと左に旋回することができます。
また、バンクすると傾いた分だけ揚力の方向も左へ傾きます。この水平方向の分力が求心力となって旋回するのです。また、揚力の鉛直方向への分力も小さくなります。 そうすると降下しまので、相対風が下から吹くようになり、迎え角が大きくなります。この時点では、エレベータは動かしていないので従来の迎え角を維持しよう と機首下げがおこります。機首下げになることでエアスピードが上がり、揚力を回復します。
ここでは水平旋回をしたいのですから降下してはいけません。そこでエアスピードをある程度犠牲にしても揚力の垂直成分を維持することが必要になります。 そこで迎え角の調整装置であるエレベーターを使うことにより迎え角を大きくして(つまりは操縦輪を引く)揚力の減少分を補う必要があります。

 ラダーによって、確かに旋回することはできましたが、一旦外すべりが発生し、そのお陰でバンクするといったこととなり、どうもスムーズな旋回とはいえないようです。

 さて、先に旋回はバンクすることによって行うと書きました。それではということで、操縦輪を左に廻してエルロンを操作します。左翼のエルロンは上に振られることにより、 左翼の揚力を小さくします。逆に、右翼のエルロンは下に振られ右翼の揚力を大きくします。そこでメデタシ左にバンクしてスムーズに旋回ができるかと思いきや、 機首が右を向いてしまうことになります。
 何故このようなことが起こってしまうのでしょう。
実は、右翼側のエルロンが下に振られることにより抗力(エルロンドラッグ)が大きくなり、右ヨーを発生させてしまったのです。 このことをアドバースヨー効果(adverse yaw effect)といいます。 このアドバースヨー効果をキャンセルするためにラダー操作が必要なのです。
 エルロンドラッグは、タクシーや離陸滑走の時に積極的に利用することがあります。例えば、左からの風が吹いている場合には、風見効果により左ヨーが発生します。 このようなとき操縦輪を左に廻すことにより、エルロンドラッグを用いて右ヨーを発生させ風見効果による左ヨーをキャンセルすることができます。
 また、前述の通りバンクによる機首下げ傾向を支えるために操縦輪を引く必要があります。
 更に、バンクが深くなればなるほど急旋回ができます。ラダーを大きく振ったから急旋回ができるわけではありません。

 話は変わりますが、パラグライダーもこれを使って旋回していたのを改めて思い当たった次第です。 バラグライダーには左右にコントロールコード(ブレークコード)があり、コードを引くことにより、左右の翼を変形させて迎え角を変化させています。
 左のコントロールコードを引けば、左側の迎え角が大きくなりますので、揚力が大きくなり抗力も大きくなります。左が揚力によって持ち上がろうとしますので、 左側に体重をかけてこれを防止します。そして抗力にる左ヨーにより、左へ旋回していたのです。
 そして両方のコントロールコードを同時に引けば、左右の迎え角が大きくなり、その抗力によってエアスピードを殺すことができます。 このようにして安全なスピードでランディングすることができていたのです。
 まさに迎え角によってエアスピードを調節することを既に体験していたわけです。(恥ずかしいことに、その時には全く思い当たりませんでした。)

 以上をまとめると、旋回はバンクすることによって行うものであり、バンクさせる時に発生するアドバースヨー効果をキャンセルするためにラダーが使用されるということになります。
このことを調和のとれた旋回といっております。

 さて今後の課題ですが、先ずは現在行っている訓練を着実にこなすにあることは言うまでも無いことでしょう。
タッチアンドゴーで殆どの操縦の基本要素を訓練できます。
 ・離陸
 ・上昇
 ・上昇旋回
 ・水平飛行
 ・水平旋回
 ・降下旋回
 ・降下
 ・着陸
これらの要素を7,8分で繰り返し訓練できる訳です。

 この訓練で中心をなすのは、水平直線飛行、旋回、上昇/降下を正確にすることです。
そのためには、今回のテーマで述べたことを頭で理解するだけでなく、正確に実践することができる技量を身に付けることしかないという、 全く月並みな結論に達した次第です。

 現在までフライト回数18回、着陸回数67回、総飛行時間17時間05分となりました。

<2012/09/08 追記>

 飛行機の操縦を本格的に学びたい方に、私が読んで大変参考になった次の書籍を推薦いたします。

 ボルフガング・ランゲビーシュ著(小路 浩史訳)「スティックアンドラダー」プレアデス出版
 Wolfgang Langewiesche "STICK AND RUDDER An Explanation of the Art of Flying" McGraw-Hill Book Company

 Pat Willits "PRIVATE PILOT MANUAL" JEPPESEN Sandersen Training Products

 土屋正興著「飛行機の操縦 基礎編・航法編・応用操作編」鳳文書林出版販売
 土屋正興著「VFR計器航法」鳳文書林出版販売

2009/02/02新規

2012/09/08更新

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