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第83話 取調べの可視化について

 日本国憲法に次の規定があります。
第38条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
2 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。


 最近、取調べの可視化の議論が活発になってきました。
過去幾多の冤罪事件が発生した事実を非常に重く受止める必要があると思います。そして多くの案件に「自白」が関わっていると考えます。
以前より自白偏重に偏った捜査が招く弊害が指摘されてきました。この際、取調べを可視化し、憲法の規定を担保することが必要であると考えます。
 自白は証拠の王様と言われるように捜査には欠かせないものかも知れません。であるならば尚更、可視化した上で正々堂々と自白を取り、その上でその他の証拠を 固めることに力点を置くべきではないでしょうか。それが引いては捜査能力を高めることに繋がっていくと考えます。
 確かに、可視化によって一時的(あるいは恒久的)に捜査能力が低下することは避け難いものかも知れません。しかし、優秀な捜査陣の努力に大いに期待したいところです。  そして可視化によって捜査が困難な事案などについては、司法取引制度も検討してしかるべきだと考えます。 更に言えば、医療過誤や航空・鉄道事故など公共性が高い場合については、当事者を免責にしたうえで、真相究明及び再発防止を図った方が犯罪者をあら捜しするより、社会的意義が 高いものと考えます。現状では当事者が刑事訴追されることを恐れ、真実を隠蔽して真相究明ができない弊害が大きいように思います。

 さて、人間誰しも思い込みを避けて通る事はできません。例えば、計算ミスを探す場合などでも、人の計算ミスは簡単に発見できるのに、自分の計算ミスを発見することは容易ではありません。 まさかこのようなところにといった思い込みがあるからです。
 犯罪捜査にもこの思い込みが入り込む余地が多々あります。こいつが犯人に間違いないといった思い込みが自白を強要させることになるといった構図が描けます。
密室で取調べを長時間に及び心理的に追い詰められれば、無実の自白をしてしまうことは過去の冤罪事件の例が示すところです。
 少なくとも適正な取調べから得られた自白であることを担保することは必要なことだと考えます。

 また、客観的な証拠は動かし難い証明力があります。例えば、現在のDNA鑑定や指紋などはそのように言えるでしょう。しかし、その証拠の採取に関することに関しては 問題が生じることもありえます。この証拠採取が適正に行われることも担保されなければなりません。そうしなければ証拠が一人歩きしてしまいます。
 特に裁判員制度の下では、提出された客観的な証拠を並べられれば誰しもその採取過程に疑いを挟まないでしょう。

 数人の犯罪者が処罰を免れるとしても一人の無実の人が処罰されることがあって良いのもでしょうか?
これは、次のように言葉を変えればご理解いただけるものと思います。
「多くの犯罪者を処罰できないくらいなら、一人の無実の人を処罰することくらい大したことではない。」
そして、その一人が「あなた」だとしたら。

2009/10/20新規


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